ミステリーからご当地もの、スポーツ小説まで、幅広いジャンルの世界を描く作家、蓮はす見み恭きょう子こさん。昨年は、住吉大社の門前町を舞台に、笑いあり、涙ありの人間模様を描いた『たこ焼きの岸本』が「大阪ほんま本大賞(4項参照)」を受賞。プロとして10年のキャリアを積む蓮見さんの原点、作品へのこだわりや今後の抱負について聞きました。生まれ育ったのは、堺市の旧市街地にある環濠都市。碁盤の目のような路地に江戸時代の古い建物が残り、戦前の懐かしい町並みが広がります。家の近所では母方の祖父が古道具屋を営み、昔ながらの町屋で暮らしていました。子どもの頃の夢は、漫画家。祖父の店に並んでいた古本漫画をよく読んでいたのが影響したのかもしれませんね。大阪芸術大学では美術学科を専攻し、油絵を描いていました。卒業後も印刷会社で働きながら油絵を続けていましたが、次第に仕事と子育てで手一杯に…。子育てが少し落ち着いてきた頃から、「自分の世界をもちたい」と模索をはじめました。子どもがいると油絵の道具は広げにくいですよね。小説なら、紙と鉛筆さえあれば書ける。そう思い立ったのがきっかけです。最初は、小説ということは意識せず、日々のできごとをツラツラと書いていて。「こんなことがあればいいな」と妄想しているうちに、「小説にしよう」となりました。実は、2000年に小説を書きはじめてからプロとしてデビューするまでにプロになるにはいくつかの方法がありますが、私は2002年から小説教室に通い、作品を書いては出版社が主催するコンテストに応募しました。2010年、『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞。プロとしての仕事がようやくスタートした瞬間です。今は小説教室で教える立場にありますが、教室で学びはじめてから受賞までに8年の月日を要しました。生徒さんには「石の上にも八年。近道はないですよ」と地道な努力の大切さを説いています。も、誰かに「強烈に好き」と思ってもらえるようなものを意識しています。まずは一人に届けないことには、誰かに読んでもらえない。その人が「好き」と思ってくれたら、「蓮見さんの本だから買おう」とファンになってくれます。くと、誰かが強烈に推してくれて受賞すべての人に気に入られる小説より新人賞でデビューした作家の話を聞するケースが結構多いんです。ある審査員は「これがいい」、もう一方の審査員は「これがいい」とお互いに意見を戦わせます。選考委員の気もちをグッとつかむことがないと、戦ってくれないですよね。ミステリー小説だと、200本ぐらいの応募作品から、予備選考で一割ほどに減らされます。その後、編集部で5本程度に絞る。けれど、その選考から落ちた作品を「どうしても入れてほしい」と押し込んでくる編集者がいて、その2小説家としての原風景自分の世界をもちたい座右の銘「石の上にも三年」「強烈に好き!」と思ってもらえる小説を10年かかっています。飾らない笑顔が素敵な蓮見恭子さん~新春インタビュー~~「大阪ほんま本大賞」受賞作は、優しくてどこか懐かしい物語~日常の中にある を磨く
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